前回までのあらすじ|管理人の勤務実態と契約書の違和感
副理事長に就任後、突きつけられた『管理費赤字』と『値上げ提案』。
混乱のなか、管理規約と契約書に睡魔と闘いながら目を通し、行き着いた疑問は――「管理人の勤務時間は適正なのか?」。
資料を手に入れ、ついに現地調査へ。愚痴と休憩だらけの勤務実態から、赤字の一因が見え始めた。
まだ、お読みになってない、もう一度読みたいという方は、こちらをクリックしてご覧ください。

管理会社と理事会の関係を理解する|マンション管理の基本構造
管理会社と理事会の関係性をご存じない方は、こちらの記事をご覧いただくことで、今回の内容がスッと分かりやすくなります。
ぜひクリックしてご覧ください。

物価も収入も変わらないのに、なぜマンション管理費が赤字になるのか
管理費会計は、マンションの日常的な維持管理にかかる費用をまかなうための会計です。
たとえば、エレベーターや共用部の電気代・清掃・点検業務、管理会社への委託費用などが含まれます。
物価も収入も変わらないのであれば、管理費会計は基本的に収入と支出が毎年安定するため、『黒字』または『収支トントン』とするのが基本です。

収支トントンより、黒字がええわ。



『お金に困ると、判断力が鈍る』っていうしな。めざせ真っ黒!
家庭に置き換えて、考えてみてください。
光熱費や家賃、食費など、日々の生活に必要な支出というのは、贅沢をしなければ毎年同じくらいになりませんか?
遊びや嗜好品のような『気分次第』のお金を除けば、暮らしの基本コストは、そう大きくブレないはずです。
それと同じで、マンションの管理費も、おかしな出費をしていない限り、毎年そんなに大きく変わるものじゃないはずなんです。



無駄のない支出やのに赤字になるんなら、収入を増やさなしゃーないな。
まずは、どんなお金を支払っているのか。把握していく必要があります。
収支計算書から読み解くマンション管理費の実態
どんな収入があるのか、何にお金を支払ったのかは、過去の収支計算書を見ていくしかありません。



今後、出てくる『住民』はオーナーである住民のことな。賃貸で借りて住んでる人は、住民やけど管理費は払ってないから除くで。



賃貸で借りて住んでる住民は、『管理費・家賃をオーナーに払う』。オーナーは、『管理費・修繕積立金をマンション管理組合に払う』って感じやな。
第1期|収支トントンの黒字と支出項目の全体像
管理費会計は、日々のくらしを維持管理していますから、第1期と第2期以降の収入と支出の項目は、基本的に変わらないはずです。
まずは、収入にはどんなものがあるのか、支出にはどんなものがあるのかを把握していきます。



項目名を読んだだけじゃ、サッパリわからん。寝たら分かるようになるんか?不思議と、寝て起きたら分かるってことない?



とりあえず、収入100としたら、支出97.67で、収支トントンの黒字やった。
収入|管理費・専用庭・駐車場・駐輪場など
管理費以外の収入は、使用者から使用料として徴収していました。
- 管理費
- 専用庭
- 機械式駐車場
- 駐輪場
- ほか諸々



ほぼ、住民から徴収するもんばっかりやな。住民以外からの収入の代表格は、預金利息くらいやな。
支出|管理委託料・保守点検・電気代・保険料など
支出にズラっと並ぶ項目を見て、泣きそうになります。
- 管理委託料
- エレベーター保守料
- 駐車場保守点検料
- 機械警備料
- 宅配ロッカー管理費
- 電気料、水道料
- 損害保険料
- 防犯カメラリース料
- ほか諸々
どうでしょうか?
何を目的として支払っているのか、分かりますか?



電気代、水道代ぐらいしか分からん。
支払っているのは間違いないとして、本当に必要なものなのでしょうか?
やたらと、保守・点検・管理をしていますが、その回数や金額は適正なのでしょうか?



一番ややこしいのが『管理委託料』やな。おそらく、管理会社に払ってるんやろうけど。どんな業務を委託して、何を管理してもらってんねやろ。



そう言えば、管理会社と結んだ委託契約書に、ごちゃごちゃ書いてたけど覚えてないわ。あれ、もっぺん読まなあかんってことか。ひとまず、おいとこ。進まへん。
分かったような、分からないような気分のまま、進んでいきます。
第2期|宅配ロッカー管理費の消失とFTS管理費の登場
予想通り、収入も支出も第1期とほとんど同じ項目ですが、『宅配ロッカー管理費』は消え、『FTS管理費』が増えています。



もー。『FTS』って何やねーん。面倒やけど調べてと……。宅配ロッカーのことやないかー!途中で項目名、変えんなよ!ややこしいな!



収入100としたら、支出98.03。2期も収支トントンの黒字。
第3期|機械式駐車場の保守点検で初の赤字に転落
収支共に項目の変更はありませんでしたが、第3期で初の単年度赤字に陥ってます。



収入100、支出100.43。収支トントンの赤字。赤字のトントンはアカン!
赤字の理由は、機械式駐車場の保守点検を第2期の後半から実施するようになったからでした。
まさか第3期で、すでに赤字になっているとは思いませんでした。
気づかない原因は、過去に繰り越してきた黒字額と相殺されていたからです。



「まだ新しいから、そんなに保守点検せんでも大丈夫やろう」ってことで、第2期の前半まで保守点検してなかったんやろうな。
第4期|LED化と電子ブレーカー導入で電気代を大幅削減
暮らしの基本コストは大きくブレないため、第4期からは微妙な赤字が続くのかと思っていました。
結果は、見事な黒字達成です。



収入100、支出93.21。過去最高の黒字!なんでや?!
原因は、第4期の途中に共用部のほとんどの電球をLED化し、電子ブレーカーを導入したためでした。
電気代だけの比較では、前年度を100%とすると、今年度は69.88%でした。



期の途中からやと3割削減やったけど、年間比較なら5割くらい削減できそう。工事費も4年位で元とってたからな。大成功やん。このときの理事会は立派やわ。
電子ブレーカーは、ザックリいうと電力会社とムダに大きな契約をしなくても、実際の使い方に合わせて『賢く』電気を使えるようにする装置らしいです。
第4期で導入した電気ブレーカーを、「電子ブレーカーを導入できない場合もありますから、導入できるか調査しませんか?」と第13期の理事会において、管理会社は提案してきています。



は?導入済みやけど?「導入できるかどうか調査する」って何?
『管理会社に任せておけば安心』なんて考えは、危険です。
こちらの記事で詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。


第5期|排水管清掃と駐車場空きによる収支悪化
今までにない支出項目が目にとまります。
『排水管清掃』というもので、これは詰まりが原因の漏水事故を防止するためのものでした。
排水管には、料理に使った油や小さなゴミ・洗剤・髪の毛・シャンプーなど、さまざまな汚れが流れ込みます。
これらは徐々に蓄積し、詰まりの原因になるため、対策していくということのようです。
前期のLED化により、大幅な電気代の削減に成功したため、今後は黒字で左うちわかと思いきや、微妙に赤字です。



電気代の削減額は、なかなかデカかったてんけどな。うまいこといかんな。
原因は、複数ありました。
- 前期まで満車だった機械式駐車場に空きが出た
- 今期から排水管清掃を2年に1回実施することとなった
- 植栽管理をしておらず伸びてきたため、今期から年2回実施することとなった



収入100、支出100.36。またまた赤字。
ここで、大きな問題に気づきました。
機械式駐車場の使用料として徴収しているお金が、すべて管理費会計の収入になっていることです。
満車時の駐車場使用料は、住民から集めている管理費の約50%にあたる大きな金額です。



超大雑把に言うと、管理費会計の収入は『管理費66%』・『駐車場使用料33%』で成り立ってるってイメージな。
1台空きが出るだけで、管理費会計の収入が7%減となり、影響はとても大きいです。



駐車場の空きで、簡単に赤字になるような不安定な会計は、問題あるよな。でも、ここで止まってたら進まん。あとで考えよ。



そもそも、機械式駐車場は金食い虫で、修繕するときに、「お金が足りへん」ってなって、『借りてる人と借りてない人で揉める』ってよく聞くよな?そやのに、駐車場とは関係のない日々の暮らしで使ってもうてんのは、ええんか?
第6期|人件費高騰と法定調査で赤字が拡大
わずかな赤字が続くのかと思いきや、赤字か拡大しています。



収入100、支出102.9。赤字微妙に拡大!
複数の原因が重なりあって、赤字は拡大していました。
- 期の途中から駐車場が満車に戻った
- 人件費高騰で管理委託料が上がった
- 法定の特定建築物定期調査を行った
駐車場の借り手がつかないままなら、赤字はもっと大きなものとなっていました。



駐車場利用料を管理費会計の収入とすんのは、やっぱアカンよな。何とかせんとな。
特定建築物定期調査は法定ですから、やらないわけにはいきません。
多くのマンションは、3年に1回の実施を義務づけられています。
調査費の見積書を比較すると、理事会取得より管理会社取得の方が1.5倍も高いものでした。
知っていて損はありません。こちらで紹介していますので、ぜひご覧ください。


第7期|保険金収入と消費税増税の影響を受けた収支
「どうせ赤字だろう」と、ため息をつきながら資料を確認します。



収入100、支出102.3。予想通りの赤字。
原因は、下のものでした。
- 2年連続、人件費高騰という理由で管理委託料があがった
- 保険金がおりた
- 駐車場が年間通して満車になった
- 期の途中から消費税が8%から10%へあがった
収入項目に『保険金』というものが、初めて出てきました。
2018年の大型台風で、被害に遭ったときの保険金でした。



築13年目やけど、保険金が出たんは、これ1回だけやったな。10年で100払ったとしたら、12.4戻ってきたって感じ。



そもそも、どんな内容の保険なんやろ?過剰に掛けてたら、もったいないよな。『免責』つけてんのかな?こんな少額の保険”金”なら、免責つけて保険”料”さげた方が、トータルは安くなりそうやけどな。また考えんとな。とりあえず後回し。
気になるのは、今まであった支出項目『排水管清掃』が無くなっていることです。
詰まって漏水事故になっては大変と、2年に1回の実施だったはずです。
「何故だろう?」と調べたところ、管理会社に委託し、管理委託料として支払うように変更されていました。



管理委託はええねんけど、2年に1回のはずが、毎年実施になってるやん。単純に、費用が倍増することになったな。



これも、総会で議決されてるから、無関心で「何でもOK」って委任状だしてた住民の責任やねんけどな。シレっと倍にされてると、なんかやられた感あるわ。
ここにきても、赤字会計だと住民が騒がないのは、過去の黒字を食いつぶせていたからです。
第8期|黒字の蓄積を食いつぶし、本気の赤字へ突入
前期は、保険金という臨時収入がありましたが、今期はありません。
人件費高騰という同じ理由で、2年連続、管理委託料は値上げになっています。
今期から、消費税はすべての期間において10%です。
「もう赤字だろう」と決めつけて、資料を睨みます。



収入100、費用102.8。ハイ、赤字。そんな気してた。
ここで、初めて過去の黒字を食いつぶし、とうとう本気の赤字になってしまいました。
次期予算案を見てみると、『収入100』『費用106.5』とありました。
赤字が、加速していきそうです。



本気の赤字になって、理事が回ってきたのよ。えらいこっちゃで。
8期分の分析で見えてきた、マンション管理の構造的な問題
契約・運用・住民意識に潜む赤字の原因
8期分の収支と運用で分かったことは、単に支出が多い・収入が少ないという『結果』ではなく、そうなってしまう『構造』や『運用』に、本質的な問題があるということです。
具体的に見えてきた問題は、次のものでした。
- 会議に使用するレジュメの当日配付
- 役員の1年任期、総入れ替え
- 管理人は、勤務時間中に無断で食事・休憩をとっている
- 様々な支出の目的や内容が不明
- 管理委託している業務が不明
- 駐車場使用料のすべてが、管理費会計の収入になっている
- 損害保険の契約内容が不明
- 人件費高騰という理由で、管理委託料の値上げの申し入れを、精査せず受け入れている
また、並行して確認していた過去の議事録では、管理会社への不信を決定的にしたものがありました。
管理会社との契約と規約改正の矛盾
組合発足時の規約では、役員の任期は『2年任期の半数改選』だったのです。



実際の運用は、初年からずっと、管理会社のリードで、『1年任期の総入れ替え』やったわ。おかしいな。
国交省は、雛形として使用できる、『マンション標準管理規約』というものを作っています。
その規約では、理事会の継続性を目的として、2年任期の半数改選が定められています。



なんやゆーたら、「国交省は…推奨しています」を多用する管理会社が、なんでここだけ、勝手なことしてんねん!



国交省は、「1年任期の総入れ替えはアカン」ってスタンスやのにな!
築5年目の理事会が、『任期について、規約と運用が合っていない』と気づき、管理会社に相談したところ、管理会社は、「規約を運用に合わせよう」と提案し、規約改正がなされています。



なんで、国交省の推奨する方から、アカンってゆってる方に変更してんねん。それは改正ちゃうやろ!改悪やろ!



これは、管理会社が管理組合を『くいもんにしたい』という証拠に見えるな。
やっと、『問題に気づく』ところまで、辿り着きました。
いよいよ、この問題をどう解決していくかです。



結局、住民の無関心の結果が赤字ってことやな。
本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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